weBLOGs.Tail-Lagoon.com http://weblogs.tail-lagoon.com/ これは、Tail-Lagoon(TL) が運営するブログ群です。性格別に複数のブログに分類されています。それぞれ、「Nodal Point」総合的な話題、「WEB+PC」ウェブ(デザイン)やパソコンに関する技術的・実用的な情報のストック、「Bibliopolis」読書記録や書物に関すること、「Another Time, Another Way, Another World」フィクション、作り話(ショート・ストーリー)となっています。 Tuesday, 7 February 2012 23:14:25 +0900 ja [Another] - 島 (Draft 2012.02.02 - ) http://weblogs.tail-lagoon.com/Another/263/ http://weblogs.tail-lagoon.com/Another/263/#comments 2012-02-07 19:02:43 +0900 Tail-Lagoon http://weblogs.tail-lagoon.com/Another/?p=263  ──亡くなって仏になる、というのはピンと来ないが、亡くなって精霊になる、という言い方ならば、むしろしっくりする。島中あらゆる場所にいて島民を見守り、夜ともなればボソボソブツブツ呟き出す。天候のこととか、事故とか流行病とか、島で起きることはおよそ何でも話すが、とりわけ交合と出産の話題が好きなようだ。  ──冬。雪のやんだ夜の雪道。ぽつり、ぽつりと距離を置いて僅かな人影。  雪明りに反射して、人の体も輝いているように見えることがある。光の衣を一枚まとったような姿は、高次の存在のようにさえ見えて美しい。それが中身を伴わない偽りの姿としても、偽りの無垢としても、やはり美しく見える。  ──ガチャガチャ、ガチャガチャ。風と波と精霊。雪に閉ざされた島で。  ──笹の葉裏に潜む精霊達がざわざわと導き、笹藪はいつしか丈高い竹藪になり、深く迷ってしまうから、気を付けるんだよ。そんな時は、笹の葉を一枚もぎって、縦に裂く。細かく細く幾つにも裂いたら、投げ上げてご覧。ひとつだけ風に逆らう葉片があるから、そっちが出口だよ。近所の婆さんが教えてくれたんだったろうか。  いつか本当に竹林に迷ったことがある。やはり冬のことだった。雪の積もった竹林には、自分以外には一頭の獣の足跡。野犬だろう。時折、たわんだ竹が突然跳ね上がって、大量の雪を落とす。そのたび緊張して身構える。精霊達がその様子をからかって笑いだす。笑われた子は、野犬のように遠吠える。明るく静かな空間が甦る。  ──雪は卵のように繭のように蛹のように島を包み込み、その冷気に覆われた島は鉱物のように凪のように臨終のように静まり返るが、遠方の海底火山の子守唄は目醒まし唄となって、島の地底深く密通して解凍熱を送波し続けるのだった。真っ先に目醒めるのはもちろん精霊達の筈。  冬中、鈍色の鉛太陽が雲の向こうに微かに認められるだけの、雪の降る島では、蒼穹はただそれだけで救済として機能していた。見えないものに、雲の彼方に、春の王国があり、その出現を島は待ち侘びた。  ──島は双胴船を転覆させた形をしており、大部分が山地から成る。その最高峰の山頂にはこの島で最古の精霊達が棲まい、島の時系列と運行を司っている(浮遊島ではないが、他天体との運行/運航調整は必要らしい)。多少耄碌してはいるが、長老達の舵取は概ね良好である。  ──島は鉱物質の巨大な植物かもしれぬ。二つの山脈と見えているものは本当は双葉なのかもしれぬ。そうならやがて数百年数千年も経つうちには太い茎と大きな葉と巨きな花を咲かせるのだろう。そんな空想をしているうち、根っこがどうなっているのか気になり出した。根を探せ、島の根を。  地殻深く食い込んだ根のその片鱗だけでも見てみたい。板根状か気根状の今にも蠢きそうな逞しく力強い根、そんな絵を思い浮かべた。脚鰭の生えた友人に頼んで海底を探ってもらったが、どこにもそんな様子はないと言う。余程巧妙に隠されているのだろうか。精霊達もこれについては口を噤んで何も語らぬ。 ]]> http://weblogs.tail-lagoon.com/Another/263/feed/ [Another] - ウラシマの家 http://weblogs.tail-lagoon.com/Another/246/ http://weblogs.tail-lagoon.com/Another/246/#comments 2012-01-31 13:17:10 +0900 Tail-Lagoon http://weblogs.tail-lagoon.com/Another/?p=246  古い家だった。このあたりでは伝統的な木造家屋。至る所に祖先の痕跡が遺されていた。床をはぐれば角やら牙やらが転がり、柱や壁の罅(ひび)には髪や爪、鱗などがたくさん挟まり、階段や天井は蓄積された呻きや嗤い声に満ち、屋根は無数の溜め息の重さに撓(たわ)んでいた。死者の視線が生者の行動を縛り、規定した。祖父は娘であり叔母は息子、祖母は私だった。
 集落にはもはや他の住人もなく、ぽつりぽつりと離れて建つ家屋はどれも廃屋だった。私達は何世代もの間、この家でひっそりと暮らしていた。ここは隔離された土地だった。

 この家に降り積もった時間が放つ独特の臭気に導かれたのか、珍しく客人がやって来た。周辺と同じ廃屋に見えたせいだろうか、何の断りもなく勝手に私達の家に踏み込んで来た。小さな窓から辛うじて入り込んだ陽光の薄明かりの中で、その男は玄関土間の中央に佇み、やがて部屋の隅に転がった奇妙な形状の家具を見つけて、首を傾げた。もしこれが椅子ならばどんな形状の生物が腰掛け、もし食器だとしたらどんな形状の生物がこれを使ったのかと。生憎、私達はお前と同じ人間だよ。見たら驚くかもしれんがな。物陰から様子を見守りつつ、私達はそう考えていた。

 この家には、私達のほかには守宮が数多く住み着いていた。そして既に祖先の半ば以上が、守宮と二角で相似し三尾において合同していた。この数百もの守宮のうち一匹だけ四肢の指の数が多すぎる奴がいて、私ととても相性がよかった。現時点では角と右目と鱗と翼を共有している。いずれ近いうちに胃と脳もそうしたいが先祖を差し置く訳にもいかぬ。というのも複雑な掟やしきたりがあって(詳しい説明は割愛するが)、面倒でもそれらの手続きと年月を経なければならないのだった。
 無論、守宮と同化したとしても、私達が人であることに変わりはない。そのことは解ってもらえるだろうと思う。
 夜中になると、守宮達は鳥のような鳴き声を発する。賑やかで、とても楽しい。この家が、いつもひっそりと静まり返った寂しい所だと思い込んでいたなら、大間違いだ。そして守宮以外にも、様々な小動物がこの家に棲息していることも付け加えておこう。

 数日後、あの客人がまた家にやって来た。何のためか。ここは立入り禁止区域の筈だが、男は政府関係者か、それとも無断侵入者か。おそらくは後者だろう。
 この前は祖母の力を借りた。若い祖母の姿は男を虜にした。幻惑し、弄び、完全に精気を抜き取って追い出した時には、この家のことも家具のこともすっかり忘れさせた筈だった。しかし祖母の記憶が強烈に焼き付いてしまったらしい。これは厄介だ。強すぎる思慕の情というのは、操作が難しい。祖母はついやり過ぎたのだ。あまりに久しぶりの来客ゆえ、加減を忘れてしまっていたのだろう。
 この件について緊急親族会議を開くことになった。

 再び祖母が応対した。強烈な呪力(まじない)を用いて男に問い質したところ、ここにやって来たことは誰も知らないと言う。最初は死ぬためにやって来た。しかし今回は、祖母に会うためにここへ来たのだと言う。そうか。ならば、もうこの家から帰しはしない。少なくとも生きては帰さぬ。親族会議でそう決定した。とは言っても、男を殺そうというわけではない。私達一族はそこまで非道ではない。ただ、男が生きている間は、この家から一歩も外に出さないでおくと、そう決めただけだ。

 ではどうするか。守宮化する(過去にも例がある)。養子縁組する(恐らく無意味だ)。誰かの婿にする(まさか祖母の? しかし男は若い姿の祖母に恋しているし、散々彼を弄んだ挙げ句に情が移ったせいか、祖母も満更でもなさそうである)。
 そして最後に残った最も現実的な案は、ただ好きにさせておく、というものだった。というのも、男は勝手にやって来たのだし、全く出て行く様子がなかったのだ。もし一歩でも玄関から外へ出ようとしたら、すかさず足に牙を打ち込んでやろうと皆で固唾を飲んで見張っていたのだが、出て行く素振りなど露ほども見せなかった。呑気に鼻歌なぞ歌いながら部屋から部屋へと彷徨き廻り、物珍しげにあれこれ物色していた。男はもうこの家に引き蘢ることを自ら決意していたのだ。

 腹が減れば、食料なら、豊富な守宮と、茸が家中いたる所にあり、囲炉裏で火を起こして焼けばよかった──勿論、先祖と同化した守宮は注意深く避けるのだ。まあ、万が一間違って先祖を喰ったところで、一度死んだ者が二度死ぬ訳でもなかったのだが。ただ、長い年月かけた二角相似三尾合同の手順を再び繰り返すことに不満を漏らす位の話だった──。部屋によっては冥加や芋や無花果も採れた。特に最近葬られたばかりの先祖の遺体が埋められた床下で採れたものは格別美味であった。
 退屈もなかった。書庫には私の曾祖父が遺した書物や画が山を成していたし、美しい祖母(最初に言ったと思うが覚えておられるか、祖母とはつまり私でもある)もいて、男はもうそれだけで十分に満足らしかった。この家の小さな窓から入る日の光や風、雨の景色、星空と繊月(せんげつ)、それ以外に何が必要なのだ?

 数世紀に亘って溜まった時間塵(三角結晶の緊密な音素結合をなしている)は、じわじわと肺を蝕み、内耳を蝕み、骨を蝕んだ。だが男はそんなことに構わなかった。
 暫くすると男に新しい趣味ができた。男は先祖達の残骸である毛や爪や歯や蔓を年代別に調査する作業に没頭した。そういう時の男は、絡みつく蔦を振り払うように邪険になり、祖母に見向きもしない。ただ冷酷に固まり呻吟し嗽咳(そうがい)を発した。冷たい部屋に冷たい咳が響いた。祖母はもうその頃には男にぞっこんだったので、もはや最初の頃とは権力関係が逆転していた。祖母は男の言いつけに従い、男の邪魔をしないように努めた。ただ、男があまり凍え過ぎないようにと気を遣うだけだった。
 それに男の方も、調べ物が一段落して気が済めば、すぐにまた祖母を求めた。いとしげに髪を撫で、そっと抱きしめた。

 家が軋む。それは古い家の呼吸、身震い、呻き、空咳。その度、私達一族は一同青褪め、身をすくめ、冷汗を流した。この家も永遠ではない、いずれ崩壊する、それを知っているからだ。先祖代々、家に寄生してきた。家の最期は家系の最期を意味した。だが、今は、ただ滅びてしまうことがあまりにも寂しかった。すると、男に落胤(らくいん)を授けようかという気も起きる。男の血が混じった子なれば、或いは棲家なしでも生きていけるかも知れぬ。皆がそう考えるようになった。
 兆候もあった。最初はちょっとアルビノが増えたかというくらいだった。だが今や明らかに守宮達は色素を失い透明になりつつあった。ただの装飾と思っていた翼が機能し始め、蝙蝠のように部屋中を飛び交った。なぜ蝙蝠がこの家に居着かなかったか、これでわかった。もし蝙蝠が棲んでいたら、飛翔を覚えた守宮によって、すべて駆逐されてしまったろう。遠い昔に、蝙蝠達は既にこのことを予見していたのだ。
 ある日、すべての守宮達の姿が完全に見えなくなり、翼のはためく音しかしなくなった。はたはた、はたはた。時々は壁や天井を這う音も混じったが、寧ろその方が少なくなった。

 もう、男が来て幾月幾年かが過ぎていた。
 冬中降り続いた雪も止み、根雪は泥に変わった。
 守宮が透明になって暫くして、今度は大量の百足と鼠と蛞蝓が家から逃げ出した。こんなことはこれまでなかった。それを見た男は、不意に立ち上がった。眼には私が見たことのない光を宿していた。男は徐(おもむろ)に幼い娘をひとり選んで抱き抱え、決然として──家を出ていった。もう誰も制止しなかった。男の咳が遠ざかって行った。
 元の世界に辿り着く頃には、もう男には若さも力も残ってはいないだろうが、珠子と名付けた娘が成人しているだろう。それが時の力というもの。

 それから──家の蹟(あと)には今でも私達の髪が、骨が、爪が、角が、牙が、鱗がたくさん埋まり、誰かの建ててくれた墓標が、吹き曝(さら)しの敷地に多少の時間をとどめている。
 ──時には花も咲く。誰が供えずとも。

(了)

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[Bibliopolis] - 『はまむぎ』レーモン・クノー(滝田文彦 訳)の書き出し http://weblogs.tail-lagoon.com/Bibliopolis/271/ http://weblogs.tail-lagoon.com/Bibliopolis/271/#comments 2012-01-27 08:33:15 +0900 Tail-Lagoon http://weblogs.tail-lagoon.com/Bibliopolis/?p=271  ある男の影が浮かび上がった。同時に幾千もの。まさしく幾千とない影がいた。彼はつい今しがた眼を開いたところであり、そして押しつぶされた通りはうごめき、一日中働いた人々がうごめいていた。今言った影は、巨大ないやらしい建物の壁から抜け出たのだが、その建築というのは息がつまりそうに見え、銀行なのだった。壁を離れると、壁は他の姿たちに突き飛ばされてよろめいた。これといって眼につく個人的行動もなく、自分の不安というより幾千とない隣人たちの不安の総体によって、あちらへこちらへともみくちゃにされて。だが、このよろめきは外見にすぎなかった。事実は、労働から眠りへ、苦難から倦怠へ、苦痛から死への最短距離だったのである。 ]]> http://weblogs.tail-lagoon.com/Bibliopolis/271/feed/ [Another] - 蝶 http://weblogs.tail-lagoon.com/Another/242/ http://weblogs.tail-lagoon.com/Another/242/#comments 2012-01-21 22:00:56 +0900 Tail-Lagoon http://weblogs.tail-lagoon.com/Another/?p=242 http://weblogs.tail-lagoon.com/Another/242/feed/ [Another] - 未来の古物商 http://weblogs.tail-lagoon.com/Another/229/ http://weblogs.tail-lagoon.com/Another/229/#comments 2012-01-11 00:13:38 +0900 Tail-Lagoon http://weblogs.tail-lagoon.com/Another/?p=229 <懐中時計>  およそ三万年前の地層から発掘されたという古い懐中時計を、古物商は自慢気に私に見せて言った。 「今は止まってますがね、この発条(ぜんまい)を捲くと、一時間だけ針が動きます。つまりね、三万年前に滅んでしまったあの文明が、一時間だけ蘇るのですよ」

<眼鏡>

 擦傷だらけのレンズが嵌った古い眼鏡。古物商は言った「未来が見える眼鏡です。いえ、でした」  でした? 「この傷ではもう殆ど何も。本来は何百年か先が覗けたんですが」  試しにかけてみた。ぼんやりした向こうに何やら奇怪なものがたくさん蠢いているようだ。見えなくてよかった。

<義臍>

 用途不明のものを見つけた。黒い小さな円錐状の渦巻きの中心から五センチほどの長さの注射針がついている。装身具か医療器具か。  古物商に質問したところ「それは義臍ですね。臍をなくした人や最初から臍のない擬人が装着するんです。腹に刺した後、孔から銀河を注入して使用します」  理解できず、不思議そうな顔をしていると、古物商が店の奥に向かって声をかけた。「ハダリー、こっちへ」  古物商の手招きで呼ばれた擬人は、冷たい目と華奢な腰を外気に晒したアラブ・ステロタイプ。そのむき出しの腹部には確かにさっきの器具が。 「どうぞ」白い息とともに吐き出された細い硬質な擬人の声に促され、顔を近づける。  冷たい風。そして、奥には確かに銀河の輝く影が開いていた。

<ナイフ>

「天叢雲剣はご存知ですね。蛇の胎内に刃物が宿ることはよく知られてます。これもそのひとつです」  何の殺傷力もない食事用の銀ナイフ。 「おや、侮らないで。百人ものひとが歯を欠き、千人が映った己の顔に驚き、万人が苦悶の涙を流したのです」  その時ナイフが鎌首をもたげ私の目に向けて毒液を噴出した。

<冷凍庫>

 小型の冷凍庫があった。珍しい、実用品も置いてるんだな。家庭用コンセントに繋いであり、駆動音の小さい唸りが聞こえる。電源がオン? 「売り物ならその中です。でもご覧になるなら、蓋の開閉は三秒以内でお願いします。温暖化防止と節電にご協力ください」古物商はそう言ってから、少し微笑んだ。  何か死骸でも保管してるかと少しびくびくしながら開けた。だが中に有ったのは、蒼白の光を湛えた冷たく美しい光景。白い険しい山々の谷を流れる河。すぐに蓋が閉じられた。 「氷河です。地図上には存在しませんが、ここに実在します。氷が溶けると、この地球の気候に多大な影響を及ぼしますので」

<萬年筆>

 ほう。銀色に輝く長楕円体の古風な萬年筆。いいね。取り上げてキャップを回したが外れない。 「それは宇宙船です」と古物商。  まさか、これはどう見たって、と二三度振った時「あっそんなことしたら!」古物商が叫び、萬年筆は快晴の空へと飛び立った。サヨウナラ、と素晴らしい筆跡の飛行機雲を残して。 「行ってしまったね…」 「ええ」力なく肩を落とす古物商。  私は恐る恐る尋ねた。「おいくら?」 「…いえ」とだけ小さく呟き、古物商は店の奥に引っ込んでしまった。また今度謝ろう……

<寫眞機>

「かつて寫眞機という道具は、瞬間を切取り銀塩フィルムに固定するための道具でした」と言わずもがなの説明。 「しかし」とここからが勿論、古物商の真骨頂である。「見てください、このカメラ。レンズしかない。そうです、カメラの本質はレンズにあるのです」  寫眞が撮影できるからこその寫眞機では? 「無論です。まさか私がそんなこともわからないなどと?」古物商の目がここぞとばかりに輝いた。「さあ、どうぞ」とレンズをライトテーブルに無雑作に乗せると、像が浮かび上がった。  もう滅んでしまった古い種族の姿…これは単数なのか複数なのか、彼等についてあまり詳しくはないので数え方がわからないのだが、なぜだろう、見ているうち、涙とも涎ともつかない体液が溢れ出るのを止めることができなかった。

<萬年筆2>

 おや、これは? 「そうなんですよ」と普段あまり愛想ない古物商がニコニコしている。  こないだ私の粗相で失踪した萬年筆、ではなく宇宙船が、細身と小型と併せて三本に増えていたのだ。 「ひょっこり戻って来ましてねぇ。やはりこの星は居心地がいいらしい、家族も一緒に連れて来ました」  責任を感じていた私は安堵して店を出た。ふと空が暗くなったので見上げると、蝗(イナゴ)のような萬年筆の大群が…

<箱>

 箱の中にはあれがいる。かりかりかり。時を囓る音がする。開けてはなりませんよ。わかってるって。かりかりかり。昼夜を措かず音は続く。駄目だ、耐え切れぬ、私には持ちこたえられない。翌日、私は結局、箱を古物商に返品した。

<バベルの文字>

「これはバベルの塔の欠片と言われています」と拳大の黒い石を古物商に見せられた。「石ではなく焼成煉瓦ですよ」  ふむ。文字らしきものが刻まれている。 「はい。ただ、この一文字だけしか発見されていないので、何の文字かわからないのですが、既知のものではないそうです」  子どもの落書きかも。 「その可能性もあります。しかし、この文字を声に出して読むと、かつてこの塔が崩壊したように、今度は世界が崩壊すると言われています。神の用意したスイッチらしいのです」  へえ。わたしは咄嗟に、脳裡に閃いた出鱈目な音声を呟いた。  ── 「おや危ない。でもよかった、まだ私達は無事のようです」と古物商は微笑したが、私は何か違和感を感じていた。一瞬前のことがとても遠く感じられた。そしてこうも考えた。拡散し波動収縮した後の、この世界とは別の私達はもういないのだろうと。古物商の掌の黒い欠片から文字がすっと消えていった。 ]]>
http://weblogs.tail-lagoon.com/Another/229/feed/
[Bibliopolis] - 読書記録 2012年 http://weblogs.tail-lagoon.com/Bibliopolis/262/ http://weblogs.tail-lagoon.com/Bibliopolis/262/#comments 2012-01-04 06:04:37 +0900 Tail-Lagoon http://weblogs.tail-lagoon.com/Bibliopolis/?p=262
  • 01/0x 『マルテの手記』 リルケ 望月市恵 訳
  • 01/02 『暦の歴史』 ブルゴワン 南條郁子 訳 池上俊一 監修
  • ]]>
    http://weblogs.tail-lagoon.com/Bibliopolis/262/feed/
    [WebPC] - ファイル名の変更 http://weblogs.tail-lagoon.com/WebPC/2011/12/18/79/ http://weblogs.tail-lagoon.com/WebPC/2011/12/18/79/#comments 2011-12-18 18:15:25 +0900 Tail-Lagoon http://weblogs.tail-lagoon.com/WebPC/?p=79 http://weblogs.tail-lagoon.com/WebPC/2011/12/18/79/feed/ [NodalPoint] - 実現目処のない計画表 http://weblogs.tail-lagoon.com/NodalPoint/2011/11/24/74/ http://weblogs.tail-lagoon.com/NodalPoint/2011/11/24/74/#comments 2011-11-24 03:55:13 +0900 Tail-Lagoon http://weblogs.tail-lagoon.com/NodalPoint/?p=74 http://weblogs.tail-lagoon.com/NodalPoint/2011/11/24/74/feed/ [Another] - 分身 http://weblogs.tail-lagoon.com/Another/216/ http://weblogs.tail-lagoon.com/Another/216/#comments 2011-11-11 23:59:06 +0900 Tail-Lagoon http://weblogs.tail-lagoon.com/Another/?p=216 http://weblogs.tail-lagoon.com/Another/216/feed/ [WebPC] - Windows Command Memo http://weblogs.tail-lagoon.com/WebPC/2011/7/22/76/ http://weblogs.tail-lagoon.com/WebPC/2011/7/22/76/#comments 2011-07-22 15:25:11 +0900 Tail-Lagoon http://weblogs.tail-lagoon.com/WebPC/?p=76 http://weblogs.tail-lagoon.com/WebPC/2011/7/22/76/feed/ [Bibliopolis] - 読書記録 2011年 http://weblogs.tail-lagoon.com/Bibliopolis/237/ http://weblogs.tail-lagoon.com/Bibliopolis/237/#comments 2011-05-04 00:00:34 +0900 Tail-Lagoon http://weblogs.tail-lagoon.com/Bibliopolis/?p=237 特に震災からこっち、かなり読書量が減った。心理的に、読めるものが限定されたせいもある。記録に残していない、読みかけては中途になっているものもかなりある。思いつくところではシオラン『絶望のきわみで』、ボルヘス『創造者』、エリオット『荒地』、チャトウィン『ソングライン』、ペソア『不安の書』と『ペソア詩集』とか。他にもありそう。

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    http://weblogs.tail-lagoon.com/Bibliopolis/237/feed/
    [Bibliopolis] - 死と視線 http://weblogs.tail-lagoon.com/Bibliopolis/247/ http://weblogs.tail-lagoon.com/Bibliopolis/247/#comments 2011-03-01 14:33:49 +0900 Tail-Lagoon http://weblogs.tail-lagoon.com/Bibliopolis/?p=247 『老いぼれグリンゴ』フエンテス/河出書房新社
    library.tail-lagoon.com

    グリンガ、おれはそのあと学んだんだ。もうすぐ死ぬが、まだ、そのことがわかっていない人間たちの目にそんな視線が浮かんでいるのを。ときどき、そんな連中を見かけるが、そんなときには誰が、いつ、最初に死ぬか、おれたちにはわかるんだ。その視線には距離みたいなもの、内側を見つめているようなところがあって、それがこうおれたちに言うからだ。『わしを見ろ。わしはもう死ぬ。わしには死ってものがまだわからんが。だが、それはわしがまさしく自分を外側からじゃなくて内側から見ているからだ。おまえはわしを外側から見てる。わしの言うとおりかどうか教えてくれ。坊主、わしをひとり、淋しく死なさんでくれ』

    『老いぼれグリンゴ』フエンテス 安藤哲行 訳)

    うろおぼえだが、確かリルケが同様なことを書いていたような記憶が……。マルテじゃなくて、たぶん詩のほうで。

    追記(03.08)

    だが 彼等の眼はその瞼のうらで反転し
    いま じっと内部をのぞきこんでいるのだ

    「モルグ(屍体公示所)」 『リルケ詩集』 富士川英郎 訳)

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    http://weblogs.tail-lagoon.com/Bibliopolis/247/feed/
    [NodalPoint] - 境界 http://weblogs.tail-lagoon.com/NodalPoint/2011/3/1/71/ http://weblogs.tail-lagoon.com/NodalPoint/2011/3/1/71/#comments 2011-03-01 13:05:37 +0900 Tail-Lagoon http://weblogs.tail-lagoon.com/NodalPoint/?p=71 グリンゴ爺さんが教えてくれた。旅とは境界を越えることだと。 見えない境界が案外身近にもあるはずだ。ただ一歩の距離に。 そして、そのただ一歩の境界だとしても、越えればそれはきっと旅なのだ。 逆に、もしも世界がボーダーレスになってしまったら、どこまで遠くへ移動しようとも、旅は無効だ。形骸化した娯楽行為ではない、本源的文化的な摩擦や負荷の経験は、もうなくなってしまう。とはいえ、今のところボーダーレスなど一部の経済人が宣う幻想に過ぎない。世界はフラットではないし、経済的な影響がどれほど広範囲になろうと(地表すべてを覆い尽くして?)、それでもひとつに統合されているわけではない。 様々な境界がクレバスのように世界を断絶させているのだから。 あるいは、その断絶や高低差、丘や谷間や氷河は、人間にとっては充分すぎるくらい永遠に存続するはずだから。(なくならないよ、いつまでもずっとね。そしてむしろ、その方がいいんだよ、きっとね) ]]> http://weblogs.tail-lagoon.com/NodalPoint/2011/3/1/71/feed/ [Bibliopolis] - 飛ぶ女 http://weblogs.tail-lagoon.com/Bibliopolis/242/ http://weblogs.tail-lagoon.com/Bibliopolis/242/#comments 2011-02-28 22:49:38 +0900 Tail-Lagoon http://weblogs.tail-lagoon.com/Bibliopolis/?p=242 『パタゴニア』チャトウィン/河出書房新社
    library.tail-lagoon.com

     メンバーは男性だけであるが、緊急のメッセージを運ぶために女性が使われる場合もある。このような役目をになう女性をボラドラと呼ぶ。たいてい信頼のおけるメンバーが、家族の中でいちばん美しい女性を選び、この役目を押しつける。彼女がその役目を果たせなかったときは、もとの生活に戻す。女性の入会儀式は、まず同じような40日間の水浴びから始まる。そしてある晩、森の中の開けた場所で教官と会うよう命じられる。彼女に見えるのはキラキラ光る銅の皿だけである。教官は命令を下すがけっして姿は見せない。教官は彼女に服を脱ぎ、腕を前に差し出してつま先立ちするよう命じる。彼女は苦い味のする液体をひと口飲み、腸を吐き出す。
    「皿の中へ! 皿の中へ!」と教官がどなる。
     からだの中がからになった女はすっかり身軽になり、羽を生やして人家の上をヒステリックに叫びながら飛び回る。世が明けると彼女は皿のところに戻り、腸を飲み込んで人間の姿に戻る。

    『パタゴニア』チャトウィン 芹沢真理子 訳)

    ]]>
    http://weblogs.tail-lagoon.com/Bibliopolis/242/feed/
    [NodalPoint] - 不要と回転 http://weblogs.tail-lagoon.com/NodalPoint/2010/10/19/66/ http://weblogs.tail-lagoon.com/NodalPoint/2010/10/19/66/#comments 2010-10-19 03:53:58 +0900 Tail-Lagoon http://weblogs.tail-lagoon.com/NodalPoint/?p=66 http://weblogs.tail-lagoon.com/NodalPoint/2010/10/19/66/feed/ [WebPC] - Macでラテン文字の入力(キーボードショートカット) http://weblogs.tail-lagoon.com/WebPC/2010/9/23/71/ http://weblogs.tail-lagoon.com/WebPC/2010/9/23/71/#comments 2010-09-23 10:20:02 +0900 Tail-Lagoon http://weblogs.tail-lagoon.com/WebPC/?p=71 [option]+[E] : ´(acute / アクサンテギュ)   Á : [option]+[E] & A   é : [option]+[E] & e [option]+[_] : `(grave)   À : [option]+[_] & A [option]+[I] : ˆ(circumflex)   Â : [option]+[I] & A [option]+[N] : ˜(tilde)   Ã : [option]+[N] & A [option]+[U] : ¨(umlaut)   Ä : [option]+[U] & A [option]+[A] : ˚(ring) ※ A のみ   å : [option]+[A]   Å : [shift]+[option]+[A] ※入力ソース U.S. [option]+[C] : ¸(cedilla) ※ C のみ   ç : [option]+[C]   Ç : [shift]+[option]+[C] おまけ : 以下の文字・記号などもショートカットで入力できる。 (これもキーボードビューアで確認するほうが早いか)  [option] との組合せで、  • © ® Ω « √ ™ º ø … など  [shift]+[option] の組合せで、  » ¿ ◊ など ]]> http://weblogs.tail-lagoon.com/WebPC/2010/9/23/71/feed/ [NodalPoint] - 右も左も http://weblogs.tail-lagoon.com/NodalPoint/2010/7/5/65/ http://weblogs.tail-lagoon.com/NodalPoint/2010/7/5/65/#comments 2010-07-05 04:37:02 +0900 Tail-Lagoon http://weblogs.tail-lagoon.com/NodalPoint/?p=65 右脳・左脳テスト:Right Brain vs. Left Brain test 最初は左回りに見えたけど、ちょっと注意をそらしたら、右回りに見えるようになった。 ちょっとコツをつかむと(ぼくの場合は、足下の影を見ること)、すぐに右でも左でもどっちでも好きに回せるようになる。と思うのだけど、どうですか? ]]> http://weblogs.tail-lagoon.com/NodalPoint/2010/7/5/65/feed/ [NodalPoint] - 1 = 0 http://weblogs.tail-lagoon.com/NodalPoint/2010/7/2/52/ http://weblogs.tail-lagoon.com/NodalPoint/2010/7/2/52/#comments 2010-07-02 01:51:52 +0900 Tail-Lagoon http://weblogs.tail-lagoon.com/NodalPoint/?p=52 [1] a = b とする この条件により、下記の2つの式は自明である a2 = a2 ...(1) b2 = ab ...(2) そこで、式(1) から式(2) を引く a2 - b2 = a2 - ab 両辺を因数分解して (a+b)(a-b) = a(a-b) 両辺を (a-b) で割ると a+b = a 両辺から a を引くと b = 0 両辺を b で割ると 1 = 0 となる...

    [2] あるいはまた...

    1 を大きな数で割っていくと、商は限りなく 0 に近づく。 したがって極限では 1/∞ = 0 ...(3) 両辺に∞を掛けると 1 = 0 となる... ちなみに (3) の式は 1/0 = ∞ と変形することもできる。 要するに 0 で割ると無限大。 ※ 念のため書いておくと、0 の除算はルール違反なので、[1] も [2] も不正。中高生のみなさん、だまされないように。もっとも、一番だまされやすいのは、もう何年も数学から離れてしまったぼくのようなおじさんたちかもしれない(おばさんたちは、はなから数学に興味がないからだまされようがない)。 ]]>
    http://weblogs.tail-lagoon.com/NodalPoint/2010/7/2/52/feed/
    [WebPC] - SendTo の表示 (Windows Vista) http://weblogs.tail-lagoon.com/WebPC/2009/10/31/69/ http://weblogs.tail-lagoon.com/WebPC/2009/10/31/69/#comments 2009-10-31 00:00:42 +0900 Tail-Lagoon http://weblogs.tail-lagoon.com/WebPC/?p=69 http://weblogs.tail-lagoon.com/WebPC/2009/10/31/69/feed/ [WebPC] - 波ダッシュ http://weblogs.tail-lagoon.com/WebPC/2009/7/27/66/ http://weblogs.tail-lagoon.com/WebPC/2009/7/27/66/#comments 2009-07-27 15:11:48 +0900 Tail-Lagoon http://weblogs.tail-lagoon.com/WebPC/?p=66 ~ と入力するのが、最も確実。 (本来波ダッシュと全角チルダは違うのだが、実用上そんなことは言ってられない) 詳しくは WIkipedia を参照。]]> http://weblogs.tail-lagoon.com/WebPC/2009/7/27/66/feed/