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世界の対称性 »

 植物が行う光合成と動物が行う酸素呼吸対称的な化学反応である。植物は大陽の光をエネルギー源にして二酸化炭素から複雑な有機物を合成し、動物はそれを分解して生活に必要なエネルギーを得ている。光合成も光化学反応やカルビン回路、酸素呼吸も解糖系やクエン酸回路などと呼ばれる、多数の生化学反応の複雑な連鎖から成り立っているが、それらの化学反応をすべてひとつの式にまとめると、それぞれ
 光合成 6CO2 + 6H2O → C6H12O6 + O2
 酸素呼吸 C6H12O6 + O2 → 6CO2 + 6H2O
 となり、まるで最初からそのように設計されていたかのような、完全な対称性を持っている。高校生の時、大きな模造紙にたくさんの生化学反応の連鎖をひとつひとつ書き出してゆき、それらがけっきょくはこの二つの反応式に集約され、すべての物質が生態系の循環の中で完結している様子を一目で見られるようにして、それを壁に貼りつけて眺めてはその見事な仕組みにひとりで幻惑されていたものだった。

(蛭川 立「意識のコスモロジー – 場当たり的な奇跡」(「風の旅人」vol.42))

Tail-Lagoon @ 00:08   |   PageUp

胡桃の中の無限の王国 »

O God, I could be bounded in a nut shell and count myself a king of infinite space, were it not that I have bad dreams.

(http://shakespeare.mit.edu/hamlet/hamlet.2.2.html)

なにを言う! このハムレット、たとえ胡桃の殻のなかに閉じこめられていようとも、無限の天地を領する王者のつもりになれる男だ。悪い夢さえ見なければな。

福田恆存 訳

なにを言う、このおれはたとえクルミの殻に閉じこめられようと、無限の宇宙を支配する王者と思いこめる男だ、悪い夢さえ見なければ。

小田島雄志 訳

(『ハムレット』第2幕第2場 ハムレットの台詞)

ところで、胡桃は人間の脳髄と形状が似ている(16世紀のエピステーメー「相似」により、胡桃は頭部の治療に用いられたと、フーコーが報告している)。ぼくらは脳という胡桃の小さな殻の中に閉じ込めれているが、しかしこの胡桃はまた無限の宇宙をも内包しているのだ。

ついでに書いておけば、ハムレットのこの台詞は、”To be, or not to be…” 同様に、かなり有名なものらしく、様々なところで引用されているのを見かけた気がする。正確なところは全く覚えていないのだが……。

Tail-Lagoon @ 23:23   |   PageUp

世界を見る »

『砂の本』ボルヘス/集英社Collected Fictions by Jorge Luis Borges / Penguin Classics
library.tail-lagoon.com

 子供の頃、私はこうした醜怪さをそのまま受け入れていた。すなわち、共存しているというだけの理由で、世界と呼ばれる許容しがたいものを受け入れるのと事情は同じだった。

『砂の本』「人知の思い及ばぬこと」ボルヘス 篠田一士 訳)

As a boy, I accepted those facts of ugliness as one accepts all those incompatible things that only by reason of there coexistence are called "the universe."

(THERE ARE MORE THINGS by Jorge Luis Borges. Translated by Andrew Hurley.)

 一つのものを見るということは、それを理解するということだ。肘掛椅子は、人間の体を、その関節と四肢とを想定する。鋏は、切るという動作を想定する。ランプ、あるいは、乗り物についてはどうか? 未開人は伝道者の聖書を体得できぬ。船客は、水夫と同じ索具を見るわけではない。もしわれわれに本当に世界が見えれば、おそらくそれを理解できるだろう。

『砂の本』「人知の思い及ばぬこと」ボルヘス 篠田一士 訳)

In order truly to see a thing, one must first understand it. An armchair implies the human body, its joints and members; scissors, the act of cutting. What can be told from a lamp, or an automobile? The savage cannot really perceive the missionary's Bible; the passenger does not see the same ship's rigging as the crew. If we truly saw the universe, perhaps we would understand it.

(THERE ARE MORE THINGS by Jorge Luis Borges. Translated by Andrew Hurley.)

Tail-Lagoon @ 20:06   |   PageUp