2007/07/10(火)
パイの台詞より
「選択はまったく自由なの。一冊の書物のようなものよ。どの出来事もひとつの言葉、ひとつの文章、果てしない物語のなかの一節なの。どの文字も、それが記されたページに永遠に残るの。なにを読み、なにを読まずにすませるか、選択をくりかえしながら変わっていくのは、意識のほうなのよ。」
(『ONE』 リチャード・バック 平尾圭吾 訳)
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彼は不思議な雰囲気を持っていた。うまく言えないが、そこに坐っていることで、刈り取られて乾いている夏の干し草全体を、トラベル・エアの影に代表させてしまっているような、それがドナルド・シモダだった。僕は自然に手を上げてしまった。なぜだかわからない。十ヤード離れたまま声をかけた。
「やあ、君がなぜか寂しそうに見えたんだよ」
すると、彼は柔らかい声で答えた。
「君だってそう言えばそう見えるぜ」
「じゃまかな? じゃまなら消えるけど」
彼は、少し笑って言った。
「いや、待ってたのさ、君をね」
それを聞いて僕も微笑みを返した。
「そうかい、遅くなってごめんよ」(『イリュージョン』 リチャード・バック 村上龍 訳)
とつぜん、まだ十歩ほど先だろうか、逆方向からひとりの若い女がやってくるのを見る。とてもみすぼらしい服の女で、むこうも同時に、あるいはもっと前から、私を見ている。ほかのすべての通行人と反対に、頭をまっすぐに高くあげて進んでくる。とても華奢な体つきで、ほとんど地に足をつけずに歩いている。なにか目に見えない微笑がその顔にうかんでいるようでもある。奇妙な化粧をしていて、目からはじめて途中で時間がなくなった人のようだが、その目のふちだけはブロンドの女にしてはとても黒い。それは目のふちで、けっしてまぶたではない(中略)。私はいまだかつてこんな目を見たことがなかった。ためらわず、ただし最悪の事態も覚悟していたことは認めるが、この未知の女に声をかける。彼女はほほえむ。だがそれはひどく秘密めかしていて、そのときにはとても信じられなかったことだが、事情はわかっているというような微笑である。(中略)もっとじっくり彼女を見る。この目のなかにひらめくこんなにも異常なものはいったい何なのか? この目のなかにぼんやりとうつしだされる苦悩のようなものは、同時にきらきらとうつしだされる倨傲のようなものは何なのか?
(『ナジャ』著者 巖谷國士 訳)
(強調部分は引用者による)
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