2012 1月の記事

『はまむぎ』レーモン・クノー(滝田文彦 訳)の書き出し »

 ある男の影が浮かび上がった。同時に幾千もの。まさしく幾千とない影がいた。彼はつい今しがた眼を開いたところであり、そして押しつぶされた通りはうごめき、一日中働いた人々がうごめいていた。今言った影は、巨大ないやらしい建物の壁から抜け出たのだが、その建築というのは息がつまりそうに見え、銀行なのだった。壁を離れると、壁は他の姿たちに突き飛ばされてよろめいた。これといって眼につく個人的行動もなく、自分の不安というより幾千とない隣人たちの不安の総体によって、あちらへこちらへともみくちゃにされて。だが、このよろめきは外見にすぎなかった。事実は、労働から眠りへ、苦難から倦怠へ、苦痛から死への最短距離だったのである。

Tail-Lagoon @ 08:33   |   PageUp

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Tail-Lagoon @ 06:04   |   PageUp