2010/05/04(火)
『はだかの王様』は、誰の眼にも王様は裸だと映っていた。ただ一人の子どもだけが見えたままを正直に叫んだが、大人たちも自分が嘘をついていると自覚してはいた。
『1984』の世界では、誰もが王様は素晴らしい服を着ているのだと信じているし、本当にそう見えている。王様が裸に見える人間は、狂っているのだ。だからオブライエンは、ウィンストンを拷問しながら、彼を精神錯乱、精神異常とし、「治療可能だ」と嘯いてみせる。
ウィンストンはもちろん、自分が狂っているとは思っていない。「少数派であっても、いやたった一人の少数派であってさえ、そのことで狂人ということにはならない。一方に真実があり、他方に出鱈目がある。もし全世界を敵に回しても真実を手放さないのなら、その人間は狂っていないのだ。」
これは陰鬱な小説だ。敗北は最初から確定している。
文明を維持しているのは狂気だ。狂気が世界を支配し、正気の人間が周縁部に押しやられ、あるいは消えてゆく。──我々はみな自覚なき狂人である。
オーウェルが告発しているのは、全体主義であり、権力を維持するためのシステムであり、徹底的な監視と管理による憎悪が支配する社会である。
しかし、──とぼくは思う──資本主義も、民主主義も、あらゆる社会体制は、結局のところ狂気の沙汰でしかないのではないか。『1984』の世界とは別の形で。
Filed under: Impression | タグ: オーウェル, 狂気
Tail-Lagoon @ 22:54
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クラブレ : 2010/05/24(月)22:12
更新をいつも楽しみにしてるクラブレです。
tail-lagoon氏の足元には及びませんが、これから読もうとしてる作品が有ったりすると、うれしくなったりしてます。
『1984』20年以上本棚の隅に座っているようなので、再読してみようかなって。
ピンチョンは 読んでみたんですが、私の脳では理解できませんでした。
「狂気の沙汰」 今日の言葉として 記憶記憶。
次は私も勧める作品を書けますように。
Tail-Lagoon : 2010/06/07(月)22:12
クラブレさん、こんにちは。あまりまともな更新をしていませんし、誰かが読んで面白いと思うようなものを書いているつもりもないので、「楽しみ」と言われると恐縮至極です。
本の好みは人それぞれですし、ぼくはひとにはあまり本を薦めたりしないんです。若い頃それをやって、期待した反応が得られないとがっかりしたし、社交辞令的な反応にもうんざりしたしで、もはやそういう情熱は枯れてしまいました。
でもまた、気が向いたらいつでもどうぞ。