へそのネジ »

  Somehow it was all tied up with a story he’d heard once, about a boy born with a golden screw where his navel should have been. For twenty years he consults doctors and specialists all over the world, trying to get rid of this screw, and having no success. Finally, in Haiti, he runs into a voodoo doctor who gives him a foul-smelling potion. He drinks it, goes to sleep and has a dream. In this dream he finds himself on a street, lit by green lamps. Following the witch-man’s instructions, he takes two rights and a left from his point of origin, finds a tree growing by the seventh street light, hung all over with colored balloons. On the fourth limb from the top there is a red balloon; he breaks it and inside is a screwdriver with a yellow plastic handle. With the screwdriver he removes the screw from his stomach, and as soon as this happens he wakes from the dream. It is morning. He looks down toward his navel, the screw is gone. The twenty year’s curse is lifted at last. Delirious with joy, he leaps up out of bed, and his ass falls off.

(V.   THOMAS PYNCHON )

 どういうわけかその夢(it)はすべて、かつて彼が聞いたある物語に結び付いていた。ある物語とは、本来へそがあるべきところに金のネジをつけて生まれてきた若者の話である。若者は20年もの間、世界中の医者や専門家に相談し、へそのネジを取り除こうとしたのだが、うまくいかない。最後にハイチで、ブードゥーの呪術師のもとに駆け込み、ひどい悪臭のする飲み薬を与えられる。彼は薬を飲み、眠りにつき、夢を見る。夢の中で、彼は緑のランプが灯った路上にいる。呪術師の教えに従って、若者は出発点からふたつ右へ、ひとつ左へ進み、七番目の街灯のところに生えている一本の樹木を見つける。木には多数の色とりどりの風船がぶらさがっている。梢から四番目の大枝に赤い風船がある。風船を割ると、黄色いプラスチックの握りがついたドライバーが中に入っている。彼はドライバーを使ってへそのネジを取り外し、ほどなく夢から覚める。朝になっていた。若者がへそを見下ろしてみると、ネジがない。ついに20年間の呪いが取り去られたのだ。歓喜のため有頂天になって、若者はベッドから飛び出し、そのとたん尻(ケツ)がはずれて落っこちる。

(『V.』 トマス・ピンチョン)

Tail-Lagoon @ 00:19   |   PageUp

ピンチョンの全集? »

新潮社で、トマス・ピンチョン全小説 が出るらしい。『重力の虹』、今まで読む機会がなかったんだよね。これは楽しみ。
ただ、ちょっと値段が高めだね。

Tail-Lagoon @ 04:46   |   PageUp

読書記録 2010年 »

Tail-Lagoon @ 00:00   |   PageUp

モンド MONDO »

『MONDO』トニー・ガトリフ
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『海を見たことがなかった少年 モンドほか子供たちの物語』ル・クレジオ/集英社文庫
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トニー・ガトリフ監督 / 1995年 / フランス

モンドというこの少年の在り方をどう思う?

寂しさはあるけれど、悲惨さはない。社会、文明からはぐれた人間の生。

映像化されたル・クレジオの作品を観て改めて感じたのは、処女作『調書』にも現れていた、逸脱した人間の根源的な存在感と生命そのものの輝きだ。

モンドというかけがえのない少年。それは、単なる「かけがえのない生命」などという言葉に代表されることのない、ただひたすらモンドでしかない存在としての、かけがえのなさ。

フィクションであるにも関わらず(あるいはフィクションであるからこそ)彼の生活の奇跡的な在り方が、美しい。

これは本当に美しい映像作品だ。

原作も映画もどちらもいい作品というのは、なかなかないのだけれど、これはどちらもいい。

もともと、映像化できる作品なら、最初から映像作品として作ればいいし(わざわざ文章で書く必要なんかないだろう?)、逆に文章作品は映像化できない領域をこそ目指すべきだと常々そう考えているぼくとしては、もし小説を映像化するならば、それなりの映像の強度が必要だと思う。だから、映像作品はたとえ原作があったとしても、絶対に原作の〈言葉〉に頼ってはいけない。

そういう意味で、ガトリフのMONDOは、映像作品として、ちゃんと原作と拮抗した力を得ていると感じた。(おっと、偉そうな物言いをしているけれど、ぼくはもともとそんなに映画は見ないし詳しくもないけどね)

Tail-Lagoon @ 23:59   |   PageUp

狂気の文明 »

『一九八四年 [新訳版]』オーウェル/ハヤカワepi文庫
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 『はだかの王様』は、誰の眼にも王様は裸だと映っていた。ただ一人の子どもだけが見えたままを正直に叫んだが、大人たちも自分が嘘をついていると自覚してはいた。
 『1984』の世界では、誰もが王様は素晴らしい服を着ているのだと信じているし、本当にそう見えている。王様が裸に見える人間は、狂っているのだ。だからオブライエンは、ウィンストンを拷問しながら、彼を精神錯乱、精神異常とし、「治療可能だ」と嘯いてみせる。
 ウィンストンはもちろん、自分が狂っているとは思っていない。「少数派であっても、いやたった一人の少数派であってさえ、そのことで狂人ということにはならない。一方に真実があり、他方に出鱈目がある。もし全世界を敵に回しても真実を手放さないのなら、その人間は狂っていないのだ。」
 これは陰鬱な小説だ。敗北は最初から確定している。

 文明を維持しているのは狂気だ。狂気が世界を支配し、正気の人間が周縁部に押しやられ、あるいは消えてゆく。──我々はみな自覚なき狂人である。

 オーウェルが告発しているのは、全体主義であり、権力を維持するためのシステムであり、徹底的な監視と管理による憎悪が支配する社会である。
 しかし、──とぼくは思う──資本主義も、民主主義も、あらゆる社会体制は、結局のところ狂気の沙汰でしかないのではないか。『1984』の世界とは別の形で。

Tail-Lagoon @ 22:54   |   PageUp

生命の無価値と自由 »

『アフリカの日々』ディネセン/河出書房新社
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「さあ、一緒に出かけて、生命を不必要な危険にさらしていただけないかしら。もしも生命になにかの価値があるとしたら、生命は無価値だということこそ、その価値なのね。自由に生きる人間は死ぬことができるという言葉があるでしょう」

『アフリカの日々』イサク・ディネセン 横山貞子 訳)

危険だけれどなさねばならない何かの仕事を、もしこんな風に誘われたら、ちょっと断り切れないよね。

Tail-Lagoon @ 11:59   |   PageUp

ジャガーによる宇宙の創世と破壊 »

『歌の祭り』ル・クレジオ/岩波書店
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創造は破壊にむすびついている。古代オルメカの伝説では、ジャガーが宇宙を生み、またむさぼり食う。

『歌の祭り』ル・クレジオ 管啓次郎 訳)

宇宙・世界の創世は神話につきものだが、生み出した宇宙を貪り食うとは驚愕である。これはどんな伝説だろうか。

Tail-Lagoon @ 11:53   |   PageUp

読書記録 2009年 »

Tail-Lagoon @ 00:00   |   PageUp

別の宇宙に属する人 »

『エル・アレフ』ボルヘス/平凡社Collected Fictions by Jorge Luis Borges / Penguin Classics
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アルゴスと私は別々の宇宙に属している、知覚は同じなのだが、アルゴスは知覚したものを違った風に結び合わせ、それによってべつの物体を作り出している。いや、彼にとっては物体といえるようなものは存在しない、あるのは瞬間的な印象の連続的で目くるめくような組合せだけなのだと考えた。記憶も時間もない世界を思い浮かべ、名詞をもたない言語、非人称動詞、あるいは不変化の形容詞からなる言語の可能性を考えた。そうしているうちに日がたち、年月がたっていった。

『エル・アレフ』「不死の人」 ボルヘス 木村榮一 訳)

I reflected that Argos and I lived our lives in separate universes; I reflected that our perceptions were identical but that Argos combined them differently than I, constructed from them different objects; I reflected that perhaps for him there were no objects, but rather a constant, dizzying play of swift impressions. I imagined a world without memory, without time; I toyed with the possibility of a language that had no nouns, a language of impersonal verbs or indeclinable adjectives. In these reflections many days went by, and with the days, years.

(THE IMMORTAL by Jorge Luis Borges. Translated by Andrew Hurley.)

Tail-Lagoon @ 23:40   |   PageUp

ディックの狂気 »

『火星のタイム・スリップ』P・K・ディック/ハヤカワ文庫
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狂気というのは、ひとつの才能である。人は誰でも望んで狂気を手に入れられるわけではない。狂気を望んだところで、狂気はやってこない(例えば、アンドレ・ブルトン)。狂気は人を選ぶ。狂気は、狂気に選ばれた人間だけが持つことができるのだ。

P・K・ディックは天才だ。『火星のタイム・スリップ』を最初に読んだのがいつだったか? 時期も(もしかしたら20年ほども前のことかもしれない)内容も覚えていない。ただ、何か黒ずんだ不安な雰囲気だけが、漠然と痕に残り続けた。今、再読して、改めてこの小説の恐ろしさがわかった気がする(そして日野啓三との近しさも)。20年近くかけて、ぼくは漸く、ほんの少しだけ、狂気の側に近づくことができたのかもしれない。

Tail-Lagoon @ 23:59   |   PageUp