ある手品師 »

 彼は天性の手品師だった。ものごころついてずっと旅を続け、人々の前で技を披露して糊口を凌いできた。トランクひとつで手品のネタから生活雑具の一切を持ち歩く都合上、大掛かりな仕掛けは使えない。にもかかわらず、彼の手品は天才的としか言いようがなかった。 続きを読む… »

Tail-Lagoon @ 22:22   |   PageUp

死にそうなバカンス »

きみは死にそうなバカンスを気にして冷や毛留めグリースを塗りたくり森過ぎた松げのぼろぼろ粉末をこぼしてぼくに立腹リムーバブル線ガンをつきつけて引き金をひいた。

Tail-Lagoon @ 21:41   |   PageUp

耳児(みみご) »

http://textworks.tail-lagoon.com/baby_in_an_ear.html

Tail-Lagoon @ 12:10   |   PageUp

きみの触手 »

 きみの触手が宇宙から届いた。何千年か何万年だかもかけて、手探りする様に伸ばし続けたきみの触手が、銀河の遠方から、星を超え、時を抜け、地球に、地表に、ここに、この場所に、届いた。きみの触手は植物の蔓のように繊細で、多くの柔らかい葉をつけ、紅く、暖かく、緩慢で、鋭敏だった。触手はおずおずとぼくの顔を撫で、ぼくの腕に、背と腹に絡みついた。この触手を辿ればきみの星があり、この触手の先にきみがいて、この触手もきみの身体の一部で、この触手できみと繋がっている。この地球ときみの星が、きみとぼくによって繋がっている。何十光年も離れた星と星が、生命と生命が。

 (2012.02.19)

Tail-Lagoon @ 05:00   |   PageUp

寒くて眠れない夜/水を/あくび/痛み/泳ぐ »

寒くて眠れない夜
 寒くて眠れない夜は、牛とか馬とか可能なら象とか、とにかく大きな獣の体内に入る。それから呼吸管を伸ばして外気を取り入れる。暖かい肉に包まれ、冷たく新鮮な空気を吸い、手足を溶かし丸くなって眠る。そんな風に眠りたい。
 (2012.02.17 3:19)

水を
 水を。渇きに水を。探せ。移動に水を。潜れ。泳げ。飲め。波だて。水を。透明なゆがみを。ゆらめく透明を。冷却と忘却を。鰭をくねらせて飛べ。水を。水よ。求めよ。水を。呼び水を。引き水を。飲用水、引用水。体内と体外をつなぐ水を。羊の水と海の水と鉄と血と生命の水を。水と水と水を。魚よ。
 (2012.02.17 2:15)

あくび
 あくび。大きなあくび。存在感に満ち、リアリティが素晴らしく濃厚で目鼻口耳を備え、立派な眉毛と髭と頭髪を持ち、ついには元のくびとすげ替わってしまった。あたまでっかちのあくび。あくのくび。
 (2012.02.16 20:58)

痛み
 脚が痛み出した。脚の痛みでおれには脚が生えていることを知る。頭も痛い。とすると頭があるんだって思い出す。頭が痛くない時のおれは、きっと頭がなかったから何も思い出さなかったのだ。ほかは何も痛くない。じゃあおれには胴体も腕もないのだろう。だがおれは空を飛んでいるらしい。翼はあるのか。
 (2012.02.16 20:42)

泳ぐ
 おれはぼんやりと泳ぐ。水中仕様ではないおれの眼球では、視界もぼんやり。酸欠で頭もぼんやり、海鼠海月のように輪郭もぼんやり、生存の意思そのものがぼんやり。おれはぼんやり泳ぎ、ぼんやりときみの中に入り、ぼんやりとあなたから出てきて、ぼんやりと私の方に近付く。
 (2012.02.16 20:34)

Tail-Lagoon @ 03:19   |   PageUp

眼球復讐譚 »

 わたしは眼球である。バカな男の頭蓋の所定の位置に収まっている。この男の眼窩、なかなか居心地は悪くない。でもね、ただ綺麗なものを見るだけで生きていくことなんてできないのよ。
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Tail-Lagoon @ 12:42   |   PageUp

髑髏眼球潭 »

 きみの眼窩にかつて埋め込まれていた眼球、あのエメラルドとルビーのように美しかった眼球の所在を探索しよう。ぼくは鞄の中にきみの小さなされこうべを放り込んで旅に出る。バスが悪路に差し掛かると、きみの骨が楽しそうに音を鳴らす。カタカタ、ガタガタ。
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Tail-Lagoon @ 21:57   |   PageUp

島語り (Draft 2012.02.02 – 02.11) »

 風は去った。日は去った。月と星は窓からは見えない空の向こうに。線路だけが伸び、電車の車体は薄れて消える。窓に写るは速度の残滓、光の蛻。その翌朝には赤みがかった黄色い光線がまっすぐ窓から差し込む。何かのメカニズムによって、私は忘れかけていたあの島のことを思い出す。
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Tail-Lagoon @ 07:38   |   PageUp

ウラシマの家 »

 古い家だった。このあたりでは伝統的な木造家屋。至る所に祖先の痕跡が遺されていた。床をはぐれば角やら牙やらが転がり、柱や壁の罅(ひび)には髪や爪、鱗などがたくさん挟まり、階段や天井は蓄積された呻きや嗤い声に満ち、屋根は無数の溜め息の重さに撓(たわ)んでいた。死者の視線が生者の行動を縛り、規定した。祖父は娘であり叔母は息子、祖母は私だった。
 集落にはもはや他の住人もなく、ぽつりぽつりと離れて建つ家屋はどれも廃屋だった。私達は何世代もの間、この家でひっそりと暮らしていた。ここは隔離された土地だった。

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Tail-Lagoon @ 13:17   |   PageUp

虚数船 (draft / 2011.11.19 – 2012.01.30) »

 いつかジラフに尋ねてみたいものだ、世界がよく見えるかいって。そして頼んでみたいものだ、その二本の角の間にぼくたちの別荘を建ててもいいかなって。
 ジラフの頭上の別荘はきっと、樹上のように眺めがよく、船のように移動できて、塔のように風を受け、鳥と同じ高さに暮らし、山も雲も超えて、夜は月や星が隣にいるんだよ。──子等はもうそんな話信じてはくれない。
 ビルの屋上は必ず施錠されていると思い込んでいないか。案外開いているものだよ。──と、こういう話はきちんと耳を傾けているから、ちゃっかりというかしっかりしている。
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Tail-Lagoon @ 00:00   |   PageUp