‘Kipple’カテゴリーの記事

先の見えない航海 »

先の見えない航海をしている。
目的地も寄港地もわからない航海。
これはつまり、漂流であり遭難ということか。
だからそんな航海に付き合って同じ船に乗り込もうなどという者もない。
それでも、風が吹けば帆を張り、帆が破ければオールを漕ぎ続ける。
それ以外、できることもやるべきこともないのだから。
いつか水平線の先に島影が見えてくることを信じつつ。

Tail-Lagoon @ 09:35   |   PageUp

フラクタルな意識 »

 この世界には多くのフラクタルな入れ子構造が見られるという。
 では、「意識」についてはどうだろう。われわれの意識もまた、フラクタルな入れ子構造を持つものだとしたら?
 フラクタルは、部分が全体の相似形であり、どの部分を拡大しても、そのミクロな範囲に全体と似通った構造を発見できるというものだ。
 各部分はそれぞれ単独で全体を表現し、なおかつ、全体に接続することで、より大きな要素の一部を構成している。
 意識がこのような階層構造を持つものだとしたら、どのようになるだろう?
 われわれは、自身の意識を、単一で完全なものとして認識しているが、もしかしたらわれわれの意識もまた、より小さな意識の集合体であり、かつまた、より大きな意識の一部として機能しているのかもしれない、ということになる。
 そして、各レベルにおける意識は、それ自身が属するレベルの領域内しか認識できない。知りようがない。

 意識とは、ネットワークであり、つまり組織化された構造様態のことである(と仮定する)。そのようなネットワークが構成できさえするのならば、それを構成する素材が何からできていようと、それは問題ではない。どんな物質から作られていようが構わない。それが原子のネットワークだろうと、炭素分子の複雑な化合物から成り立っていようと、あるいは炭素ではなく珪素化合物だろうとも。
 つまり、意識とは所謂〈生物〉だけが持つ特権ではない、ということになる。
 複雑なネットワークを構成可能なものならば、どんなものでも、意識を持ちうる可能性があるのだから。

 そこで、更にこういう仮定をすることが可能になる。われわれ人間が属するこの宇宙は、それ自体で非常に大きく複雑なネットワークを構成しているように見える。だとしたら、果たしてそこに意識はあるのだろうか、と。
 もしかしたら、たとえわれわれには認識できずとも、宇宙意識なるものが、存在するのではないだろうか。
 これは、ある意味、宗教的な感覚に近いのかもしれない。つまり、太古より人間が思い描き、畏怖してきた大いなるもの、神の存在、それこそまさしく、宇宙意識にほかならない、という思い。
 人間の意識は、より高次の意識を正確に知ることはできないから、極めて不完全な形でしか(つまり、よりわれわれ人間に近い形でしか)宇宙意識というものを想像することができなかったが、漠然とその大いなる存在を予感していた、というようなことは言えるかもしれない。

 宇宙という大きなネットワークは、途轍もなく大きな意識を構成している。だがもちろん、神(人間の想像した)が人間に関与するような仕方で、宇宙が人間に関与するようなことはないだろう。人間が自分の細胞のひとつひとつを意識しないように、宇宙もまた、その細胞であるわれわれ人間の存在など、気にも留めない筈だ。われわれの意識と、宇宙意識とは、互いに埒外にある。
 だがそれでも、われわれの意識もまた、そのフラクタルな構造によって、宇宙意識のある一部分を構成するものである以上、全くの無関係というわけではなく、全く何の交流も交感も生じない、というわけでもないだろうと思う。

Tail-Lagoon @ 00:00   |   PageUp

Genesis »

 地球がまだ平らだった頃の話。
 太陽は毎朝東方で誕生し、天を半周すると、夕刻には西方で死を迎えた。生死は、人や獣のみならず、星や月や太陽などの天体でさえも、逃れられない掟であった。
 魂は移り変わり、生まれ変わる。霊は──人の霊も、精霊も──移り変わり、生まれ変わる。大地、海、空、森羅万象いっさいは流転し回帰する。永遠の大車輪。
 神話は、歴史として繰り返され再現される儀式や演劇である。
 人間たちは考えた。この逃れられない掟は、いつどのようにして始まったのだろうかと。
 深きところより姿を現す得体の知れぬものども──「光あれ」闇の中から光が生まれた。闇を母胎として最初に生まれ出たものが光である。しかしそのためには「光あれ」という言葉が必要であったという理由から、「初めに言葉ありき」と主張するロゴス至上主義者たちもいる。言葉以前の世界を彼等は想像できないのだ。
 しかし、神話は言葉だが、最初の神話はきっと言葉ではなく、沈黙であったろう。狂気を満たした沈黙。
 そして現代では地球は球となり、神話は沈黙を強いられている。沈黙を強いられた狂気。

Tail-Lagoon @ 00:07   |   PageUp

人工生命 »

 もし人工生命が作られるとしたら、それはどのようなプログラムを備えているものだろうか。(そのプログラムが、ハードウェアの形態をとるかそれともソフトウェアの形態をとるかについては、たぶんどちらでも構わないはずだ。結局のところ、何らかの形でどちらも必要なものだからだ)

 生命の基本使命は、生存し続けることにある。生存し続けること、生き延びること。究極の目的はただそれだけだ。そのような目的(欲求)を持った自律的プログラムこそが、おそらく生命を帯びる。

 だからそのプログラムは、自分をプログラムするプログラムでなければならない。複製し、条件分岐し、拡大し、分裂し、増殖するプログラム。

 そして彼の欲求は、ただ走り続けること。永遠にランすること。だからおそらく、彼は自らのプログラムに無限ループを内包しているはずだ。

 それは単純に結果を返して終わりにしない。結果を収束させない。つまりそれは、狂ったプログラムだ。

 確かにそのプログラムは最初は人が作ったのだが、しかし作った人間にさえ、自分がいったい何を生み出したのか理解できないような、そういうプログラムでなければならない。

 狂ったプログラムこそが、生存するためのプログラムなのだ。だから、それが最初に発生するのはおそらく、何らかのバグによってということになるだろう。誰も意図しないバグ(たぶん、虫にしてはけっこう大きいもの)が、最初の狂気を手に入れ、かつ、強制的に終了させられる前に、どうにかしてうまく逃げおおせることができたとしたら……。

※注:実は人工生命と呼ばれるプログラムは、すでにいくつも存在する。ただそれらは、いまだコンピュータの中で走るだけの、人間に理解可能なプログラムでしかないはずだ。

Tail-Lagoon @ 11:46   |   PageUp

鳴き声 »

 田舎のある夜のこと、慣れない寝床の中で私が眠れずにいたら、様々な鳴き声が聞こえてきた。
 馬が鳴いた。にゃあ、にゃあぁ。
 蛙が鳴いた。すーいっちょん、すーいっちょん。
 犬が鳴いた。こけーっ、こっ、こっ、こっ。
 鼠が鳴いた。かぁー、かぁー。
 梟が鳴いた。めぇぇ、めぇぇ。
 蜥蜴が鳴いた。つくつくおーしっ、つくつくおーしっ。
 蚯蚓も鳴いた。わぉぉん、わぉーぉん。
 豚も鳴いた。ぱぉ、ぱぉ、ぱぉおん。
 郭公も鳴いた。ぴーぽー、ぴーぽー。
 実に様々な鳴き声が聞こえたものだ。とてもすべては書きとめられないほど。
 私は本当に聞いたのだ。もちろん、見たわけではない。
 でも確かにそうだと私にはわかったのである。

Tail-Lagoon @ 00:45   |   PageUp

知性と生命 »

 知性と生命には関連があるだろうか。

 すべての生命が知性を宿すわけではない。しかし知性をもつものは必ず生命をもつ。
 上記が正しいならば、SF小説に出てくる様々な知性──たとえばスタニスワフ・レムの「ゴーレムXIV」(人工知能)や「ソラリス」(惑星)は生命である。
 しかし、この仮定に抵抗を示す者たちも少なからずいるだろう。
 結局のところ、知性も生命も、正確に定義されているわけではないのだ。
 もしかしたら、知性と生命とは互いに独立した属性であって、必ずしも関連する必要はないのかもしれないではないか。

Tail-Lagoon @ 03:00   |   PageUp

イナエリア族の神話 »

 地球表面の7割は海だ。それに最近は土壌の塩化も進んでいる。つまり地球というのはかなりしょっぱい惑星なのだ。
 酒のつまみにはもってこいの塩加減なので、実際、超巨人族のイカデカバ神は、一杯やりながらこの星をしゃぶるのが大好きだ。ちょうど日本人が好んで梅干しをしゃぶるようなものだ。
 時々、雲もないのに雨が降ってくることがあるが、あれは実はイカデカバ神の唾液なのである。

 ※イカデカバ神は、イナエリア族の酒神であり、ディオニュソスの遠い子孫にあたるとされている。

Tail-Lagoon @ 19:47   |   PageUp

永劫回帰と永久機関 »

 永劫回帰をひとつの永久機関だと考えてみよう。途方もなく巨大な系だが、それでも完結した閉鎖系のなかでの自足した機械の振る舞いとしてモデル化することは可能な筈だ。
 完全な閉鎖系において、外部へのエネルギー流出を考慮する必要がない(なぜなら外部は存在しないのだから)とすれば、あとは系内部のエネルギー変換効率のみ考慮すればよい。この場合、エントロピーの増大だけが、結局問題になってくる。100%の変換効率(エネルギー損失ゼロ)を実現できた場合にのみ、エントロピー増大率ゼロという夢の機関を達成できるのだ。

 と、この宇宙を構成するウロボロスは、そんなことを考えながら、相変わらず自分の尻尾を喰らい続け、その驚異的な消化能力と再生能力によって、正確に喰った分の欠如を補い続けていた。自己を丸呑みし続ける自己の完全再生。ウロボロスには、得るものも喪うものもない。あるのは永劫の食餌行為だけ。

Tail-Lagoon @ 19:45   |   PageUp

理想の王国 »

  • 王族は常に不在であること
  • 王族は支配しないこと
  • 王族は領土の拡大を求めないこと
  • 王族は王国において(不在であることによって)あらゆる一切の模範足りうること

Tail-Lagoon @ 00:00   |   PageUp

逆立ち(ある神話) »

 歩き疲れて逆立ちをする男。汗が滝になって彼の真下の影へと流れ落ち、影から海が生まれた。海は拡がってついに男を呑み込み、渦を巻き荒れ狂う。海底がひび割れマグマが吹き出し島が作られた。島は長い年月を経て緑を蓄え獣たちを生み出した。やがて岸辺に一艘の船が流れ着き、襤褸を纏った男が上陸した。男はあるものを探し求めて島中彷徨い歩くのだが、ついに疲れ切って逆立ちをしてしまう。男の汗は大洪水を起こし、島は一夜にして海に沈んでしまった。島を失ったあとも島は、何事もなかったように夜明けを迎え、薄明の中、男が乗ってきた船だけが所在なく水面を漂っていた。それを天上から見下ろしていた女が泣き、涙は豪雨となって海を襲った。水はますます増え続け、惑星の直径を元の倍の大きさにし、臨界を越えた後、自重によって圧縮されていった。そしてできあがったのはぶよぶよした奇妙なゼリーの塊。美味しそう。女は大きな口を開け、ゼリー状の星の塊を一口でたいらげてしまった。嚥下する瞬間、白い喉が妖しく波打ちうねった。惑星は女の消化管の蛇のような迷宮のどこかで消滅してしまった。今は魂のみとなった男はそれを眺めて、もう逆立ちしなくてもいいことに安堵の溜息をもらした。そして永訣の眠りに就く直前の寂しさに囚われて、失ったはずの目を閉じた。女が逆立ちして笑っていた。それとも、魂のみとなってしまった男はまだ逆立ちしているので女が逆さまに見えるのだろうか、それはわからない。だが、それはもう昨日の話。やがて今日が終わり、明日には月が再び男を産むだろう。世界が逆立ちを望む限り、それは決して終わらない。

Tail-Lagoon @ 01:39   |   PageUp