眼球復讐譚

 わたしは眼球である。バカな男の頭蓋の所定の位置に収まっている。この男の眼窩、なかなか居心地は悪くない。でもね、ただ綺麗なものを見るだけで生きていくことなんてできないのよ。

 この男のバカさ加減には嗤ってしまうほかはないが、まあそのお蔭でわたしはこうしていられるのだから、有難くもあるか。それにしても、いったいいつまであの空っぽの髑髏をわたしだと信じるつもりなのだろう。あんな容器(もの)の中に、わたしの魂が入っているものか。

 魂は眼に宿るのだ。眼を失えば耳に、耳を失えば手に、手を失えば心臓に、脳髄に、胃に、陰部に、毛髪に……骨なんて、一番最後にきまってるじゃない。ま、人それぞれか。

 あの男が見ているつもりになっているわたし、かわいいされこうべのわたし、都合よく夜伽に現れるわたし、あんなものすべて、眼球であるこのわたしが見せているに過ぎないこと、何で気がつかないのか、全くバカだ。

 ああ、しかし腹立たしいのは、あんなバカに捕まって、愛されていると信じて、挙句殺されてしまったわたしのバカさ加減。一向に怒りが収まらない。あまりの悔しさに、思わず眼球が熱を帯びてしまう。怒りが滾り、燃え上がる。
 それがどうやらかなり激しい痒みを伴うらしい。それであの男、容赦なく汚れた指と爪でわたしを掻き毟り、掻き回す。わたしは堪らず声にならない悲鳴をあげ、血と涙を流す。眼球の、深く黒い潭(ふち)から零れ出る怨嗟。男は驚き、封じ込めようと、更に黒い毒液を注ぎ込む。

 ああほんとに堪ったものではない。だがそれでも、わたしはじりじりと視神経を伸ばし、脳髄に喰い込み、もうすぐ男を支配する。待っているがいい。わたしは必ず復讐する。

 いい? 今度はあなたがわたしのものになるの。そしたらわたしは、あなたの哀れな惨めな魂をその小さな髑髏に閉じ込めて、末長くいたぶってあげるよ。味覚も嗅覚も触覚もないことが、女にとってどれほどむごいことか、きっとおまえにわからせてやる。愛してるわ。楽しみにしててね。

 (2012.2.13)

Tail-Lagoon @ 12:42

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